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民法915条1項所定の熟慮期間について相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとされる場合 最判昭和59年4月27日

事 案

・亡Dは、昭和52725日、Aとの間で、EのAに対する1000万円の準消費貸借契約上の債務につき、本件連帯保証契約を締結した。

・本件の第一審裁判所は、昭和55222日、Aが亡Dに対して本件連帯保証債務の履行を求める本訴請求を全部認容する旨の判決を言い渡したが、亡Dが右判決正本の送達前の同年35日に死亡したため、本件訴訟手続は中断した。B1は、同人の死に立ち会い、また、B2、B3も右同日あるいはその翌日に亡Dの死亡を知らされた。

・Aが同年728日に受継の申立をしたが、第一審裁判所は、昭和5629日亡Dの相続人であるBらにつき本件訴訟手続の受継決定をしたうえ、B1に対して同年212日に、B2に対して同月13日に、B3に対して同年32日に、それぞれ右受継申立書及び受継決定正本とともに第一審判決正本を送達した。もつとも、B3は、同年214日にB2から右送達の事実を知らされていた。

・Bらは、第一審判決に対して控訴の申立をする一方、昭和56226日大阪家庭裁判所に相続放棄の申述をし、同年427日同裁判所はこれを受理した。

争 点

相続放棄(民法915条1項所定)の熟慮期間の起算点

判決要旨

相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。

理 由

民法915条1項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて三か月の期間(以下「熟慮期間」という。)を許与しているのは、相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合には、通常、右各事実を知った時から三か月以内に、調査すること等によって、相続すべき積極及び消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがって単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいている

具体的事案検討

亡Dの一家は、同人が定職に就かずにギヤンブルに熱中し家庭内のいさかいが絶えなかったため、昭和41年春にB1が家出し、昭和42年秋には亡Dの妻がB2、B3を連れて家出して、以後はBらと亡Dとの間に親子間の交渉が全く途絶え、約10年間も経過したのちに本件連帯保証契約が締結された。その後、亡Dは、生活保護を受けながら独身で生活していたが、本件訴訟が第一審に係属中の昭和54年夏、医療扶助を受けて病院に入院し、昭和55年3月5日病院で死亡した。B1は、同人の死に立ち会い、また、B2、B3も右同日あるいはその翌日に亡Dの死亡を知らされた。しかし、B1は、民生委員から亡Dの入院を知らされ、3回ほど亡Dを見舞ったが、その際、同人からその資産や負債について説明を受けたことがなく、本件訴訟が係属していることも知らされないでいた。当時、亡Dには相続すべき積極財産が全くなく、亡Dの葬儀も行われず、遺骨は寺に預けられた事情にあり、Bらは、亡Dが本件連帯保証債務を負担していることを知らなかったため、相続に関しなんらかの手続をとる必要があることなど全く念頭になかった。ところが、Bらは、その後約1年を経過したのちに、第一審判決正本の送達を受けて初めて本件連帯保証債務の存在を知った。

結 論

Bらは、亡Dの死亡の事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った当時、亡Dの相続財産が全く存在しないと信じ、そのために右各事実を知った時から起算して3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったものであり、しかもBらが本件第一審判決正本の送達を受けて本件連帯保証債務の存在を知るまでの間、これを認識することが著しく困難であって、相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められるから、民法915条1項本文の熟慮期間は、Bらが本件連帯保証債務の存在を認識した昭和56年2月12日ないし同月14日から起算されるものと解すべきであり、したがって、被上告人らが同月26日にした本件相続放棄の申述は熟慮期間内に適法にされたものであって、これに基づく申述受理もまた適法なものというべきである。


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