寄与分
「寄与分」とは,共同相続人中に、被相続人の財産の増加や維持に特別の働き(特別の寄与)をした者がある場合に、相続財産からその寄与分を控除したものを相続財産とみなして各相続人の相続分を計算し、寄与者にその控除分を取得させることによって共同相続人間の公平を図る制度です。
寄与分の主体
(1)共同相続人
寄与分を主張できる主体は、現実に遺産分割に参加する共同相続人です。ですから、相続人が第1順位の相続人である場合に、第2順位以下の相続人が特別の寄与をしていたとしても、それらの者は寄与分の請求をすることはできません。
(2)養子
養子は、寄与がなされたのが養子縁組の前後であるかを問わず、寄与分を主張することができます。
(3)相続人の配偶者・子ども
寄与分額の算定において、相続人の子や配偶者など、相続人ではない者による寄与を評価してよいか否かについては争いがあります。
実務上は、このような者による寄与も、相続人自身の寄与と評価することにより、相続人の寄与分額を増加させることがあります。
相続時の相続財産-寄与分=みなし相続財産 (みなし相続財産×相続分率)+寄与分=寄与分者の相続分 |
寄与分の利益を受けるのは共同相続人ですから、例えば内縁のつかや長男の嫁の妻が特別な寄与をしたとしても、原則として寄与分の対象とはなりません。
寄与の類型
裁判上,寄与として争われた行為を類型化すると,①家業従事型,②金銭等出資型,③扶養型,④療養看護型,⑤財産管理型,⑥競合型に分けられます。
療養看護,金銭等出資,扶養及び財産管理の各類型の場合には,一般に無償行為であることが多いうえ,事実認定及び計数化が比較的容易であることから認容率が比較的高くなっています。家業従事型の場合には,通常は被相続人から生活費,給料または報酬等の給付を受けているため無償行為であるとはいえないことから,比較的認容率が低くなっています。
家業従事型
家業従事型とは,被相続人の事業(通常、法人の事業は含まない)に対し,相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。家業従事型の典型例としては,農業や自営業を夫婦,親子が協力して行った場合が挙げられます(妻の家事労働はこれに当たりません)。
具体的には,家業従事の期間・態様を認定して,それが親族の協力義務の範囲を超えるものか否かが判断されます。
特別の寄与となる具体的要件 |
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① |
特別の貢献:行為内容が、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えていることを要する(本来有償で第三者を雇用等して従事させる行為を行っていたかどうか) |
② |
無償性:被相続人が第三者を従業員として雇用した場合においてなされる第三者に対する給付(世間一般並みの労務報酬)に比べて相続人に対する現実の給付が著しく少額であること。通常より低い給与しか受けていない場合でも、被相続人と同居し被相続人が相続人の生活費を負担していた場合には、無償と評価されないことがある。 |
③ |
継続性:労務の提供が一定以上の期間に及んでいること(通常、数年程度の継続を要する) |
④ |
専従性:労務内容がかなりの負担を要するものであること |
被相続人の財産形成に相続人が寄与したことが遺産分割にあたって評価されるのは,寄与の程度が相当に高度な場合でなければならないから,被相続人の事業に関して労務を提供した場合,提供した労務にある程度見合った賃金や報酬等の対価が支払われたときは,寄与分と認めることはできないが,支払われた賃金や報酬等が提供した労務の対価として到底十分でないときは,報いられていない残余の部分については寄与分と認められる余地があると解される。また,寄与分が共同相続人間の実質的な衡平を図るための相続分の修正要素であることに照らせば,共同相続人のうちに家業に従事していなかった者と家業に貢献していた者がいる場合にこれを遺産分割に反映させる必要性があるというべきである(大阪高決平成2年9月19日)。 |
被相続人の営む会社への労務提供
被相続人の営む会社への労務提供は、あくまで会社に対する貢献ですので、「被相続人の事業に関する労務の提供」とは言えず、寄与分は認められないのが原則です。しかし、実質的にみて「会社」とは名ばかりで、実態は被相続人の個人企業であり、被相続人と経済的にみても極めて密接な関係にあり、会社への貢献が被相続人の資産の確保と明確に関連しているような場合には例外的に、寄与分が認められることがあります。もっとも、会社への労務提供に対し、賃金等の対価が支払われていないこと(無償性)が要件となります。
寄与分(家事従事型)の計算方法
寄与分(家事従事型)= 寄与者の受けるべき年間の給与額又は報酬額× (1-生活費控除割合)×寄与年数×裁量的割合 |
具体例
被相続人 |
73歳(男) |
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相続人 |
実子7人 |
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遺産額 |
約2億4千万 |
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申立人 |
4男(被相続人と同居) |
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寄与の期間・結果 |
約30年 |
10%(2340万円) |
寄与の態様 |
申立人は,小・中学校のころから家業の手伝いをし,戦後はその中心となって相続まで家業に従事し,他の相続人に比して多大な貢献があったが,これに見合う対価をうけていなかった。 |
金銭等出資型
金銭当出資型とは,被相続人の事業に関し,あるいは関せずして,財産上の給付を提供し,または被相続人の借金を返済するなどして,相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。典型例としては,不動産を使用させること,ローンの支払いを負担すること等が挙げられます。
被相続人の営む会社への労務提供
被相続人の営む会社への金銭出資は、あくまで会社に対する貢献ですので、「被相続人の事業に関する財産上の給付」とは言えず、寄与分は認められないのが原則です。しかし、実質的にみて「会社」とは名ばかりで、実態は被相続人の個人企業であり、被相続人と経済的にみても極めて密接な関係にあり、会社への貢献が被相続人の資産の確保と明確に関連しているような場合には例外的に、寄与分が認められることがあります。もっとも、会社への財産給付に対し対価が支払われていないこと(無償性)が要件となります。
評価方法
給付財産の相続開始時における価額を寄与分算定の基準とし、それに裁量割合を乗じて計算するのが一般的な方法です。裁量割合は事案に応じて、個別に判断されます。
金銭等出資型寄与分の具体例
被相続人 |
74歳(男) |
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相続人 |
配偶者,実子4人 |
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遺産額 |
約8200万 |
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申立人 |
妻 |
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寄与の期間・結果 |
相続財産購入時 |
33%(460万円) |
寄与の態様 |
申立人は,土地・建物の購入時に購入資金の一部を支出した |
扶養型
(1)扶養型とは,被相続人を扶養して,その生活費を賄い,相続財産の維持に寄与することをいいます。
ただし,夫婦はお互いに協力扶助義務を負っており,また,直系血族及び兄弟姉妹は,お互いに扶養する義務を言っているので,引きとって扶養し,扶養料を負担したとしても,それが協力扶助ないし扶養義務の履行の範囲内と評価される場合は,「特別の寄与」とは認められません。
特別の寄与となる具体的要件 |
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① |
扶養の必要性 |
② |
特別の貢献 |
③ |
無償性 |
④ |
継続性 |
寄与分(扶養型)= 扶養のために負担した額 × 裁量的割合 |
(2)具体例
被相続人 |
68歳(女) |
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相続人 |
実子2人,代襲者2人(計4人) |
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遺産額 |
約1500万 |
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申立人 |
長女 |
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寄与の期間・結果 |
26 |
46%(700万円) |
寄与の態様 |
申立人は,昭和30年ころから被相続人の死亡時(昭和56年12月5日)まで,被相続人と同居し,被相続人を扶養し,被相続人の財産の維持に努めてきた |
療養看護型
(1)療養看護型とは,被相続人の療養看護を行い,看護人依頼費要の支出を免れさせるなどして,相続財産の維持に寄与した場合をいいます。
ただし,夫婦はお互いに協力扶助義務を負っており,また,直系血族及び兄弟姉妹は,お互いに扶養する義務を言っているので,被相続人を療養看護したとしても,それが協力扶助ないし扶養義務の履行の範囲内と評価される場合は,「特別の寄与」とは認められません.
特別の寄与となる具体的要件 |
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① |
療養看護の必要性 |
② |
特別の貢献:行為内容が、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えていることを要する(本来有償で第三者を雇用等して従事させる行為を行っていたかどうか) |
③ |
無償性:対価その他実費分や何らかの見返りを得ていたかどうか |
④ |
継続性:少なくとも1年以上の療養看護が継続していたこと |
(2)寄与分(療養看護型)の計算方法
寄与分(療養看護型)=日当額×療養看護日数×裁量的割合 |
(3)具体例
被相続人 |
93歳(女) |
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相続人 |
実子4人,養子1人,代襲者6人(計11人) |
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遺産額 |
約2100万 |
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申立人 |
三女 |
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寄与の期間・結果 |
19 |
10%(208万円) |
寄与の態様 |
申立人は被相続人の三女で,父の死後,一人暮らしとなった被相続人の下にとどまり,昭和35年末ころから寝たきりになった同人の世話をし,以降昭和54年12月に被相続人が脳溢血で死ぬまで療養看護に努めた。申立てにんは一人暮らしの被相続人を放置することもできず看病に明け暮れ,結婚もできなかった。 |
財産管理型
(1)財産管理型とは,被相続人の財産管理を行い,管理費用の支出を免れるなどして,相続財産の維持に寄与した場合をいいます。具体的には,不動産の賃貸・管理,維持・修繕・保険料,公租公課等の負担などがあります。
特別の寄与となる具体的要件 |
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① |
財産管理の必要性 |
② |
特別の貢献 |
③ |
無償性 |
④ |
継続性 |
(2)具体例
被相続人 |
83歳(男) |
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相続人 |
実子4人(計4人) |
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遺産額 |
約4,045万 |
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申立人 |
長男 |
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寄与の期間・結果 |
15年 |
10%(405万円) |
寄与の態様 |
遺産である建物は他に賃貸中であるところ,申立人は,事実上の貸主として,契約の更新,公正証書の作成など,被相続人に代わって管理業務を行っていた |
寄与分の評価
(1)寄与分の評価
寄与分の評価時期につき、裁判例の多くは相続開始時を評価時点としています。
なお、寄与の終期は相続開始時までで、相続開始後の貢献については、遺産分割時に「一切の事情」(民法906条)として斟酌されるにすぎません。
(2)寄与分の限界
寄与分は、被相続人は相続開始時に有していた財産から遺贈の価額を控除した額を超えることはできません。また、法定相続分の修正要素にすぎない寄与分が、他の相続人の相続権(遺留分)を否定できると解することは不適当であるとされています(東京高決平成3年12月24日)
遺留分減殺請求に対する寄与分の反論
遺留分の算定をする際に基礎となる財産の価額は、法律上、被相続人が相続開始の時において有していた価額に特別受益の価額を加算したものとされています。しかし、寄与分を控除するという規定はありません。
したがって、相続財産について特別の寄与をした者が被相続人から遺贈を受けた場合に、遺留分減殺請求訴訟において寄与分を主張することはできないとするのが通説の見解です。
寄与分は、相続人の間で協議が整わない場合、家庭裁判所が「審判」で決めるものだと民法で規定されており、「訴訟」で反論することが予定されていません。このため、遺留分減殺請求訴訟が提起された場合、訴訟を提起された者(被告)は、訴訟手続の中で寄与分があると反論することはできないことになります。